2015年11月28日土曜日

今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150!


監修:金原瑞人/ひこ・田中 ポプラ社 2015年11月刊

「私たちが作っている本は、読者の手に届いているのだろうか?」
「届かないと意味がない」「どうしたら届くのだろう?」「何かできることはないのか?」…などなど、本を送り出す側にいる者として、そんなことを日々もんもんと考えていますが、こういうブックガイドが出るのは、本当に心強くうれしいことです。

特徴的なのは、まずは執筆陣。普段から子どもの本の本の紹介に携わっている方に加えて、普段大人の本の書評を書いている方、作家さん、フレッシュな書店員さんなど、さまざまな方がさまざまな視点から紹介しています。だから、集まった本も、これぞYAというものもあれば、背伸びをしてYAを読んでみようと人によさそうなもの、大人の文学への橋渡しをしてくれそうなものもあります。章立ての仕方も新鮮です。

「役立つから薦めているわけではありません。読めば賢くなる保証も、たぶんしていません。他の人にも読んで欲しいな、共感してもらえたらうれしいなと思った本を薦めているだけです。」と、ひこ・田中さんがまえがきに書いています。
本好きの人間が、もっともっと声を大にして、本のことをいろんな場所で、あらゆる機会に語っていかないとね。本好きの人たちだけじゃなくて、本になじみがない人たちにも。
大学の「ヤングアダルト文学講読」の授業でも、紹介してみよう。

私も読んでみたい本がいっぱい。読んで、考えて、私も次の本を出せるようにがんばろう。

2015年11月19日木曜日

荷物が着いた!

バルセロナの日々(12)


 どうやって身の回りの品をスペインまで持っていくかは、悩みの種だった。
 ハルちゃんに荷物をどうしたか聞くと、彼女は、エアメイルと船便でダンボールをいくつか送っただけだったらしい。
 試しに運送会社にきいてみると、海外への引っ越しは通関手続きがこみいっていて、運送料が思ったよりかかることがわかった。その上、荷物を、入国後すぐと受け取るわけにいかないらしい。国境を越えるというのは、何につけ面倒なことだ。
 迷った末、郵便で送ることにした。最大の理由は、持っていくうちでいちばん大きな電化製品であるプリンターを、入国後すぐに使いたかったからだ。コスト的にも、全部EMSで送っても運送会社を使うより安かった。
 テレビと電子レンジとアイロンだけは、スペインに着いて買おうと決めた。テレビは信号方式が違うので日本の規格では使えないし、消費電力の高い家電に対応する変圧器は、高価だしかさばるので、2年だけのことに買う気になれなかった。
 よって、電化製品で持っていくのは、ビデオ(日本・スペイン両方式対応のもの)、ラジカセ(音楽は私の必需品)、プレーステーションとプリンターだけ。炊飯器もやめた。2年だけのために、ヨーロッパ規格の炊飯器を買いたくなかった。ご飯炊きは、中学校の家庭科で、文化鍋で叩き込まれたので自信があった。
 着るあてがなさそうなスーツやよそいきは置いていき、衣類も極力しぼった結果、できたダンボールは8個。そのうち1つは、すぐには手に入りそうにない日本食材。これらをEMSで送ったあと、別口で、私の辞書、参考書類と、厳選した子どもたちの絵本を、書籍小包で出した。

 到着の翌日、日本領事館に在留届を出しに行って帰ってみると、ポストに郵便局の通知が入っていた。日本からEMSで送ったダンボール8箱の引っ越し荷物の配達の不在連絡票だった。「翌日午前中に、もう一度配達をします」とある。早々と荷物を受け取れそうで、ほっとした。
 ところが、翌日、待てど暮らせど荷物が来ない。しびれをきらして、アパートの入り口の郵便受けを見におりてみると、2度目の不在配達票が入っていた。「2度目の配達をしたがいないので、2週間以内に郵便局にとりにきてください」とある。
 ええーっ! そんな殺生な!
 あんな荷物、運べるわけがない。それに、ずっと、呼び鈴が一番聞こえやすい居間にいたのに、気づかなかったなんてことがあるだろうか。ひょっとして、8箱の荷物をドア口まで運ぶのが面倒だから、最初から呼び鈴を鳴らさず、不在通知を入れたんじゃないの? まさかねえ。
 青くなって、私は郵便局に駆けこんだ。サルダニョーラの郵便局は、家から歩いて15分ほどのところにあった。
 窓口で、私は必死でくいさがった。
「昨日の通知をもらっていたから待っていたのに、呼び鈴は鳴りませんでした。私は9時からずっと部屋で待っていたのだから、聞き逃すわけがありません。もう一度配達してもらえませんか」
「2度目の通知が入っていたなら、配達したはずよ。それに、配達員が何時に帰るかわからない。一時半までに戻ってこなかったら、局の窓口は閉めてしまうからどうしようもないわ」
「でも、中には子どもたちが楽しみにしてたものも入っているんです。昨日の通知を見て今日は着くと待っていたのに。取りにくるっていっても、タクシーでも呼んでこないといけないし」。
「車はないの」
「ありません」
 黒いショートヘアーにめがねの女性局員は、ちょっと気の毒そうな顔をしてから、奥に入り、改めて出てくると言った。
「ともかく、配達の車が帰ってきたら、運べるかどうかきいてみるわ」
 家に帰って待つこと30分。もう、どうしてこんなことになるよッ! ああ、持ってきてくれなかったらどうしよう。あれこれ考えていると電話が鳴った。午後1時25分だった。
「今から届けにいくわね」
 よかったあ。
 私は子どもといっしょに、アパートの入り口に降りた。郵便局の黄色いワゴンがやってくる。配達員の人が、さっきのめがねの女性局員といっしょに、見覚えのあるダンボールをおろして台車にのせた。ちょっと強引だったかなあと思ったけれど、配達員の人がそんなに不機嫌でもなかったのでほっとした。その後、このめがねの女性局員とは、日本からの荷物がくるたびに局で顔を合わせ、すっかり顔なじみになった。
 アパートの入口の4、5段の階段をあがるときやエレベーターにのせるときは、同じアパートに住む中学生のアルバロくんとクリスティアンくんも手をかしてくれた。
 手がたくさんあったので、荷物はあっという間に運びあげられた。
 玄関に置いていかれた荷物を見ながら、言ってみるものだなあと思った。黙っていたら、たいへんなことになっていた。
 ビギナーズラックというべきか、結果オーライだったこの事件は、これからのスペイン人とのつきあいを象徴する出来事だった。なぜなら、買い物でもちょっとした修繕の依頼でも、スペインでは、苦情を言わねばならない場面にしょっちゅう出くわすからだ。交渉するなら、理屈を通して、ねばり強く説得しないといけない。私の場合、苦情を言うエネルギーがなくて、泣き寝入りするときもあった。今回のように、個人の裁量で融通をきかせてもらっていい結果に終わることがある一方で、マニュアルがあればありえない水準の低いサービスに泣かされることもあった。
 これを不快と思う人は、スペインでの生活は耐えられないだろう。時に憤慨しながらも、私はむしろこういうきちんとなっていない部分が、社会生活に余裕を生み出しているように感じられ、それほど悪い印象を持たなかった。失敗すれば無駄が出るし、効率も悪い。でも、それを包みこんでまわっている社会のほうが、ずっと人間的な気がする。日本のビジネスマンが、スペインに来ると苦労するわけだ。
 こんな洗礼の末に、到着3日目にして日本から持参した身の回りの細々とした品がそろった。アパートは、着々と我が家らしくなっていった。

2015年11月18日水曜日

Two White Rabbits

Two White Rabbits by Jairo Buitrago

Two White Rabbits
文 Jairo Buitrago
絵 Rafael Yockteng
48ページ
出版社 Graundwood Books
2015年

『エロイーサと虫たち』(さ・え・ら書房)のブイトラゴ、ジョクテングの新作が、カナダのグラウンドウッド社から出ました。スペイン語は出ないのかなと思いながら、早く読みたくて英語版を取り寄せました。楽しい絵本が主流の日本で出すのは難しいだろうなと、最初からちょっと弱気になっていますが、何か書かずにいられなくなりました。

エロイーサのときも、お父さんと娘でしたが、この本も、女の子とお父さんが二人で旅をしています。国籍はわかりませんが、浅黒い肌の色などからラテン系だとわかります。


   When we travel,
   I count what I see.


という文章で物語が始まります。だけど、この旅が、どうやら休暇の旅のようなものでないのは、すぐにわかります。その中で、この女の子が、この最初の言葉のとおり、めんどりが4ひき、牛が5頭、と見たものを数えていく行為が、子どもというものをとてもよく表しているようです。
先週見た写真展、国境なき子どもたち写真展「Four Wishes 4つの願い -世界の子どもたち-」の子どもたちの様子と重なります。


途中で、川をわたったり、線路のそばで野宿している人を見かけたり、列車の屋根に人々が乗ったりする光景が描かれます。みなが目指すのは
アメリカ国境です。そして、移民局の役人から逃げるシーンも出てきます。

ジョクテングの絵が、女の子のとてもよい表情、体の動きをとらえています。

厳しい状況は絵のみで描かれ、ブイトラゴの文章は不用意に涙を誘うことなく淡々と、旅のようすを語ります。ごく普通の旅の物語のように。

IBBY財団が、現在展開しているREFORMAという活動に関連して出版されました。
単独でアメリカの国境を越えていく子どもたちへの本による支援活動。最後に、パトリシア・アルダナさんの文章が載っています。

http://refugeechildren.wix.com/refugee-children

でも、声高に訴えるのではなく、リリカルな本になっています。
見返しには、グアテマラの心配ひきうけ人形も描かれています。

本当に、これが今、現実に、この世界で起きていること。日本の読者にいつか届けられるといいな。

2015年11月3日火曜日

だいじょうぶカバくん




タイトル:だいじょうぶカバくん
原題:El señor H
作:ダニエル・ネスケンス Daniel Nesquens
絵:ルシアーノ・ロサノ Luciano Lozano
訳:宇野和美
装幀・本文レイアウト:坂川栄治+坂川朱音(坂川事務所)
出版社:講談社
初版:2015年2月

学校の遠足で動物園の行ったロサーナは、かばの檻の前でふいに話しかけられます。
「おーい、名前はわからないけど、そこの女の子! ぼくをここから出してくれませんか?」
檻を出たカバくんを見ても、だれも慌てもせず、いぶかしみもせず、ちょっとずれたところでカバくんに注意をするだけ。カバくんはゆうゆうと町をめぐり、子どもと噴水で遊び、ピザを12枚とチョコレートのデザートを18人前、只食いし・・・。

この本と出会ったのはICEX / スペイン大使館商務部が主催しているNew Spanish Books 、確か2011年の秋の回でした。絵がちょっと堀内誠一さんふうで、かわいらしい本という印象しかありませんでしたが、読んでみて、大好きになりました。
カバくんを見ても、だれもふしぎがらないのが、何と言ってもおかしいのです。
最後のオープンエンドに、カバくん、動物園に戻らなくていいの?と思いはするのですが、そのほのぼのとした、とぼけたストーリーから、「人目を気にしてばかりいなくていいよ。好きにしたらいいんだよ」と、言われているような気がしました。
これぞユーモアの力ではないでしょうか。

檻から出してくれと頼まれて、ロサーナが手伝っていいものかどうか、迷っているとき、カバくんは言います。

「そんなになやむことありませんよ。だれも気づきはしませんって。みんな人のことなんかかまっちゃいないんですから。じつに身勝手なものです。現代の病ですね」

「身勝手」とは言っていますが、私はここにポジティブなメッセージを感じました。人の目ばかり気にして、みんなと同じじゃなきゃと縮こまっている子どもたちに読んでほしいな、だって、だいじょうぶだからと。
正義感をふりかざすことを、皮肉っているようでもあります。
友だちからいじめられないか、大人から叱られないかと、いつもビクビクしていた子ども時代の自分にも、読ませてやりたい本です。

「だいじょうぶ、とカバくんは思っていました。
チャンスはいつかめぐってきます。
きっとね。」

という終わりの文章も、すてきです。
このユーモア感覚に触れて、「スペインのユーモアってこんなふうなのね」と思ったら大間違いです。スペインの批評家たちも、「ネスケンスの独特のユーモアセンス」という言葉をよく口にするからです。
ユーモアというより、ナンセンスと言ったほうがいいでしょうか。

物語が進むうちに、カバくんが背広を着るのがおかしいという声もありますが、よく見ると、絵の中にそれらしい場面があります。
「だって買えないのに」とも言えますが、このカバくんなら試着したら、「あなたにぴったりですね。じゃあ、どうぞ」なんて、もらったのかもしれないと思えてきませんか?

小学中級からとしていますが、小学校低学年からでも楽しめるかなと思います。
せせこましい世の中で、のんびり楽しんでもらえるとうれしいです。