2016年7月6日水曜日

『アウシュヴィッツの図書係』




『アウシュヴィッツの図書係』
アントニオ・G・イトゥルベ著
小原京子訳
集英社
2016.7.5刊行


絶望にさす希望の光、それはわずか8冊の本――
強制収容所を生き抜いた少女の強さを描いた、実話に基づく感動作。
(出版社HPより)


 アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』(白水社)の中に、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所の三十一号棟に秘密の図書館があり、そこにあった八冊の本の管理は一人の女の子にまかされていた、というくだりがあります。
 スペインの作家イトゥルベは、この文章に目をとめ、その少女のことを調べていくうちに運命の導きのように現在イスラエルで暮らす当時の図書係と出会い、この本を書きあげました(このあたりのことは、本書巻末の「著者あとがき」にあります)。

 実は私も翻訳協力という形でこの本の誕生にかかわってきたので、こうして本になり喜びもひとしおです。
「感涙」とか「感動」という語がオビに躍っていますが(笑)、人が生きるために、「本」がどれほど大きな力を持っているかを見せてくれる意欲作です。
 ぼろぼろになった8冊の図書館の蔵書ばかりか、かつて読んだ本の記憶も、絶望的な毎日の中でディタを支えます。『ニルスのふしぎな旅』などの物語をおぼえていて語ってくれる人、つまり「生きた本」のエピソードも、物語の力を感じさせてくれます。

 もうひとつ、私がとてもおもしろいと思ったのは、ジャーナリストの著者らしく、アウシュヴィッツで生きていたさまざまな人々の姿を物語にもりこんでいるところです。視察団が来たとき、アウシュヴィッツは普通の収容所だと見せかけるために作られた家族収容所を中心に、さまざまな立場の人の姿が描かれています。歴史書ではなくこうしてフィクションで語られることで、歴史的事実として知っていた出来事を読者は改めて心で感じることができるでしょう。

 本好きで、うらやましいほどスペイン語の実力がある小原京子さんは、フィクションの翻訳はこれが初めてですが、著者とも連絡をとりあって、物語の魅力をたっぷりと引き出しています。これからの活躍がとても楽しみです。

 びっくりしたことに、主人公ディタは、野村路子さんが『テレジン収容所の小さな画家たち詩人たち』(ルック)で紹介しているディタ・クラウスだというのが調べていくうちにわかりました。アウシュヴィッツに送られる前、テレジンで彼女が描いた絵やインタビューがその本におさめられています。

 もともとは、スペイン大使館商務部が5年ほど前から行っているニュースパニッシュブックスという、スペインの新刊の版権を日本の出版市場に売り込もうというプロジェクトで2013年に紹介されていた1冊です。その紹介文を集英社の編集者が目にとめ、翻訳出版となりました。
 『青春と読書』7月号46ページ、豊﨑由美さんの紹介文『この世の地獄で、生きる力を与えた「本」』を読めば、本好きな人たちは読まずにいられなくなることうけあい。
 本屋さんで、図書館で、手にとっていただけたらうれしいです。 
 


1 件のコメント:

  1. 興味深いご紹介ありがとうございます。「アウシュビッツの図書係」にも触れた記事を書いております。よろしければご覧ください。→アウシュビッツ、新潟知事選、安倍政権 http://meratade.blogspot.jp/2016/10/blog-post_17.html

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