2018年3月5日月曜日

え、これ出たの! スペインの児童文学2点



最近2作続けて、スペイン児童文学の古典とも言うべき作品が翻訳出版されました。

『灰色の服のおじさん』El hombrecito vestido de gris
フェルナンド・アロンソ著/ウリセス・ウェンセル絵/轟 志津香
小学館

『ゆかいなセリア』Celia, lo que dice
エレーナ・フォルトゥン著/西村 英一郎・西村 よう子訳
彩流社

『灰色の服のおじさん』は、1978年にアルファグアラ社から刊行された、8編のお話からなる短編集です。中の1編を私も2007年に『おおきなポケット』(福音館書店)という雑誌で訳しました。佐々木マキさんの絵がとってもすてきだったので、その後、8編全部を収めて幼年読み物として同社で出せないかと提案しましたが、かないませんでした。

自由や人間らしさを脅かすものへの批判をこめつつ、声高にならず静かに語った物語は、派手さはありませんが、じんわりと胸に迫ります。最初はとっつきにくいかもしれませんが、1編の一部でも朗読すると、子どもも手にとってくれるでしょうか。

文章がとても美しいので、もう10年以上、通信添削の教材として使ってきた作品でもあります。アルファグアラ社の並製版は5、6年前に絶版になりましたが、現在はカランドラカ社の上製本が出ています。教材の本が絶版になっては困ると思って買い込んだので、ミランフ洋書店にはまだアルファグアラ版の在庫があります。復刊はうれしいけれど、作りがりっぱになったぶん値段が高くなるのは最近よくある苦々しい傾向です。

そんなわけで、翻訳出版されたと知ったときは呆然となり、一晩、仕事が手につきませんでした。でも、こういう本が出るのは喜ぶべきことですね。

『ゆかいなセリア』は、1928年から当時大流行した児童雑誌に連載され、スペインの子どもたちをとりこにした古典です。

夫が作家で、マドリードで文壇カフェに通い、文人との交友もあったフォルトゥンは、明るく、機知に富んだ女性で、「そんなにおもしろいことがあるなら、ぜひ本にしなさいよ」と、女友だちから書くことをしきりにすすめられて書き始めたといいます。セリアの物語はシリーズ化し、フォルトゥンが内戦中に亡命した後も続きましたが、フランコ体制のあいだに、作品はすべて抹殺されてしまいました。ようやくアリアンサ社で最初の数冊が復刊されたのは1992年のこと。その新版には、カルメン・マルティン=ガイテの熱いプロローグがついています。

お話は、7歳の女の子の一人称の語りで展開します。雑誌連載がもとになっているため、小さなエピソードが並んでいます。子どもらしいまっすぐな目線で大人の現実のおかしさをとらえるセリアは、無邪気ですが、たくましくしたたかです。子どもらしい発想の行動から思わぬ騒動を巻き起こすセリアに、読者は大笑いしたり、大丈夫かなと気をもんだり、やっぱり叱られたよと思ったり……。そういうところが子どもの共感を呼んだのでしょう。そこには、フォルトゥンの社会を見る確かな目も感じられます。

もともと7、8歳以上の子どもたちが楽しんだ作品なので、日本版は表紙はかわいらしいけれど、本の作りや訳が大人っぽいのがちょっと残念。

読み物の企画を、私もなんとかとりつけたくなりました。がんばろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿